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仏教解説

48 仏教とはなにか -アショーカ王- ⑥

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 アショーカ王は法の教えを徹底させるために、あらゆる官吏(かんり)を動員して宣伝させました。そのうえ法の宣教のために特別に「法の大官」とその属官とを任命しました。

 王はさらに法の布教師を各地に派遣しました。それは、当時王国の勢力範囲にあったあらゆる地方に及び、ヒマラヤ山脈に近い諸民族から、インダス河流域の西北、デカン高原から、中部インドに及びました。さらに国外にも法の使節を送り、シリヤからエジプト、マケドニヤなどの諸王にも教えを説かせたのですが、ヨーロッパやアフリカへの宣教は遂に実を結ばなかったそうです。

 アショーカ王の刻文には表れていませんが、セーロン側の伝承によると、この島に仏教が到来したのはこの王の治世であるといいます。王の弟マヘーンドラ(マヒンダ)が出家してセーロンに布教し、一挙にして国王とその臣四万人とを仏教に帰依させ、それ以来の伝統が今日まで続いているといいます。これはそのまま信じていいのか判りません。しかし仏教側の伝承によるかぎり、南インド及びセーロンへの布教はすでにこの時代に始まっているものとみられます。

 アショーカ王はその刻文の中でとくに七種の経典の名前を挙げ、僧尼や男女の在家は常にこれらを学び研究すべきであると記されています。その他の文献にも同じ事が出ているところを見ると、アショーカ王の時代には、すでにいくつかの経典が独立し、まとまった形をしていたことが知られます。ブッダ入滅直後の宗教会議で、今日伝わっているような大蔵経が一度に編集されたということは受け取りにくいですが、アショーカ王の時代には、すでに文献がいくつも存在していたことは間違いありません。ただしこれらは、インド人独特の類稀なる記憶力によって口伝されたもので、文字に写したのではありません。インドで仏教経典を文字に写すことは、紀元後四百年頃でさえ、まだ一般的ではなかったのです。

 アショーカ王の治世に仏教が一大飛躍をし、そのおかげで教団が発展しましたが、それと同時に部派的傾向が助長されることにもなりました。前にも書きましたが、仏教は元来きわめて自由な教団組織を持っていたので、異説を立てる人も多かったし、かなり違った意見を持っている人達も教団の中にはいました。しかし、仏教が地方的存在にすぎなかった時代には、地域的に異なる分派が存していてもあまり目立ちませんでしたが、今や仏教が中央に進出するにあたって正統派、非正統派の分裂が正面化したのも、当然のことと言えます。保守派(上座部)と進歩派(大衆部)との対立は、その起源は古いのですが、表面に現れてきたのは、アショーカ王の治世であったといわれています。

 部派的対立が表面化するにつれて、宗教会議を開いて教団の規律や聖典の構成を再確認、また再吟味する必要を感じたのは当然のことでした。アショーカ王の治下に、その首都で結集(けつじゅう)が行われたというのもこうした意味からでしょう。その結果として、一方においては規律や聖典が編集され確認されると同時に、地方においては、部派活動を一層助成することにもなるのです。

 アショーカ王の功績として忘れることができないのは、その社会事業です。街道を往来する人や家畜のために、一定の距離をおいて樹木を植えて木陰と果実とを提供し、井戸を掘って人々の便利に気を配り、適当な休憩所も設けました。また広く薬草を普及させ、人や家畜の病気を救いました。

 紀元前二百二十二年アショーカ王はその偉大な生涯を終えました。位について以来三十七年、仏教に専心してから二十二年でした。その晩年はあまり幸せではなかったそうです。

 アショーカ王の大偉業は、今日も人類に大きな影響を与えています。しかし、彼のあまりにも高邁(こうまい:志が非常に高いこと)な理想は、当時の人々、特に貴族階級には理解されなかったことでしょう。完全な勝利者でありながら、戦争放棄を宣言する、すでにこれだけでも驚くべきことではないでしょうか。狩猟や、競馬競牛、格闘や饗宴も絶対に禁止しました。以前から享楽に慣れていた貴族達は、かなり退屈な日々を送らなければならなくなったことでしょう。その上に仏跡巡礼、説教、慈善事業なども行っていました。私たちは当時の堕落貴族や、腐敗官吏の失望や落胆を目の当たり想像してみることができます。あるヨーロッパの歴史家は、「よくあれで三十年近くも治世が続いたものだ」と感心しているほどです。しかしこのアショーカ王の数十年の治世こそは、その後二千年にわたって東洋各地に発展した仏教の土台となり、なおかつ新興インド共和国の理念ともなったのでした。*

*渡辺照宏著 「仏教のあゆみ」
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