仏教解説

16 仏教とはなにか -ブッダについて- ⑦

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 それからやがて、ブッダが生まれ故郷に立ち寄る日が来ました。ブッダの父である王、継母である妃、かつての太子妃(ゴータマ・シッダールタ太子の妃)、実子のラーフラはそれぞれ喜んでブッダを迎えましたが、それはもはや、かつての太子ではありませんでした。シャークヤ族の人々も、多く出家して比丘となりました。老いた父王の唯一の希望であったラーフラさえも、見習いとなって出家してしまいました。その頃出家したシャークヤ族の人々のうちには、ブッダの忠実な侍者となったアーナンダ(阿難)や、戒律で有名なウパーリ(優波離)、その他、以前の鹿野苑のところにも出てきた、ブッダの弟子となり、のちに反旗をひるがえして仏教の別派を立てたデーヴァダッタ(提婆達多)等もいました。

 ブッダはこれらの新しい弟子をひきいて、ラージャガハに戻りました。その頃ラージャガハの一富商(長者)は、ブッダとその弟子たちを自宅に招くために、前日から食事の用意をしていました。たまたま、その妹婿のスダッタ(須達多)が、サーヴァッティー(舎衛城)の町からわざわざ訪ねて来ましたが、いつにもなく、この家の主人が忙しく立ち回っているのを見て、不思議に思い、その理由を尋ねると「明日、ブッダとそのお弟子とをお招きする」とのことでした。スダッタは、ブッダは驚き、かつ喜んで「ブッダという言葉を聞くことさえもあり得ないことなのに、ブッダを目の当たり拝することができるとは、何という幸運であろうか」と感激し、夜の明けるのを待ちかねて、ブッダの許に急ぎ向かいました。親しくその説教を聞いて、いよいよ信仰の念を強めたスダッタは、ブッダをサーヴァッティーに招くことにしました。こうして西北の自分の家を目指して急ぎながら、途中の多くの知人に、精舎を建ててブッダとその弟子たちを供養するように勧告していきました。スダッタは、知人も多く、人々に一目置かれていましたので、その言葉は非常に有力なものでした。中でも、ヴェーサーリー(毘舎離)の人々は、直ちに精舎の建築に着手しました。

 サーヴァッティーに立ち戻ったスダッタは、郊外に適当な敷地を物色し、富を惜しまず立派な精舎の建築をしました。それは「町の騒ぎにわずらわせられない程度に遠く、かつ往来に不便のない程度に近く」という理想に適ったものでした。スダッタは困窮者を助けることで有名であったのでアナータピンディカ(寄る辺のない者に施しをする人)という名前で知られていました。これを中国では「給孤独(ぎっこどく)長者」と訳しています。また、この精舎の敷地はジェータ太子(祇多太子)の所有地でしたので、祇多林給孤独園(ぎだりんぎっこどくおん)を略して祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)という名でよく知られています。

 サーヴァッティーを居城とするコーサラ国王であるパセーナディもまたブッダの名声を聞き、祇園精舎にしばしば訪れてその教えを聞くことを喜んでいました。このようにして、ガンジス河の流れに沿い、東南はラージャガハからヴェーサーリー、カピラヴァストゥを経て西北のサーヴァッティーに到る六百キロ程の線が、仏教教団の活躍の幹線となったのでした。*2

 尚、このジェータ太子が素直に敷地を譲ったのかというとそうではなく、問答と、条件、そして実践がありました。その部分は次の通りです。

 長者が見つけた土地は、町の南二キロほどのところにあるジェータ(祇陀)王子の所有する林園でした。
 長者はすぐさま王子のもとを訪れて、どうすればその土地を譲ってくれるのかを交渉をはじめました。でも、どうしたことでしょうか、王子は譲渡の意志をまったくみせなかったのです。
 長者「王子よ、ほかのことではない。僧園をつくりたいのです。ぜひとも譲っていただきたい」
 王子「長者よ、なんといっても駄目だ。たとい、あなたが黄金をもってかの土地をしきめぐらそうとも、売ることはできない」
 長者も引かず、王子も引かず、交渉は二人だけではどうも折り合いがつきませんでした。そこで、この交渉を国の大臣のところまで持ちこみました。大臣は二人の言い分をよく聞いたのち、ずばりと答えをだしました。
 大臣「すべて売買の取引をなすものは、いったん値(あた)いをいったからには、売らなければならん。しかるに、王子はすでにその値いをいわれた。黄金をもってその土地をしきめぐらすといわれた。よって、王子はその値いをもってかの土地は売却せらるべきものである」
 この判断は当時の売買の慣習だったそうです。

 普通なら、「土地いっぱいに黄金をしきつめろ」といわれて「はい、分かりました」とすぐさま行動することは難しいでしょう。それだけの経済力がまずないといったほうが正しいでしょう。しかし、この長者はすぐさま黄金を車に積んで運びました。どれだけブッダに布施をすることを喜びとしているのかが手にとるように分かります。
 黄金を積んだ車がその土地に着くと、それを敷かせはじめました。しかし、最初に運んだ黄金を敷きつめただけでは満足することができませんできませんでした。
 長者「もっと黄金を運んでこい。この土地の全部をしきめぐらさねばならない」
 このように長者が使用人に命じているのを見ていた王子は心を動かされました。自分もまた、その行いの一部に参加したいと思いました。
 王子「長者よ、どうか、土地の一部をわたしにお残しください。わたしもまた、あなたがかくも尊敬するブッダに、布施したいと思う」
 長者はその申し出を喜んで受け入れました。王子の心もまた、ブッダへの尊敬が芽生えはじめたかと思うと、自分のことのように嬉しくなったにちがいありません。
 やがて、林園のなかに精舎、講堂、食堂、浴室が建てられ、王子のために残されていた土地には、王子自らが門を建てられました。初期の仏教において、この精舎の果たした重要な役割が、経典のなかにたくさん記されています。その精舎にやがてブッダと弟子たちが到着するのです。」*2

 このような経緯があり、無事にブッダとその弟子たちを迎えることができたのです。


*1 渡辺照宏著 「仏教のあゆみ」
*2 増谷文雄著 「この人を見よ ブッダ・ゴータマの生涯」
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