仏教解説

78 人間としてのブッダ -聖者の死- ②

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 パンダガーマ(犍荼村)、ハッティガーマ(象村)、アンバガーマ(菴羅村)、ジャンブガーマ(閻浮村)、ボーガナガラ(負弥城)、パーヴァー(波婆)と、お経の叙述は、ヴェーサーリ(毘舎離)からの旅程を、事細かに記しています。しかし、今日の私たちには、それらの村々や、小さな町々が、どこにあり、どんなところであったかを、どれだけ調べてみても少ししか知ることを得ません。わずかに分かるところは、その村々の名前によって、ハッティガーマ(象村)は象の調御を業とした職業氏族の住んでいた部落だったのだろうということ、アンバガーマ(菴羅村)には「アームラ」すなわちマンゴーの果樹がたくさんあったに違いないということ、そして、パーヴァー(波婆)については、その町がかつてマッラ(末羅)族とよばれる人々の都であって、当時もなおサーヴァッティー(舎衛城)とラージャガハ(王舎城)を結ぶ交易路の中継点の一つであったことが知られています。つまり、ブッダ・ゴータマとその一行は、その交易路を北進していたことが知られるのですが、そのパーヴァーにおいて、ブッダ・ゴータマの身軀は、またもや病に取りつかれてしまいました。そのときのことを、お経の叙述は次のような具合に伝えています。

 パーヴァーには、チュンダ(純陀)という富める鍛冶工が住んでいて、はやくからこの師にあつく帰依していました。ブッダ・ゴータマとその一行は、パーヴァーに到ると、まず彼の所有するマンゴー樹のしげる林園に入りました。チュンダは喜び迎えて、その翌朝、善美をつくした供養の食を供しました。しかし、どうしたことか、それによってこの聖者はまたもや病いにとりつかれたのです。

 「ここに鍛冶子なるチュンダの食を召し給いける時、世尊に重きやまい発(おこ)り、赤き血ほとばしり出で、死ぬばかりなる激しき苦痛生じぬ」

 お経のことばは、このように語ります。近代の人々は、その叙述より推測して、それは今日でいえば「赤痢」だったことでしょう。さらにその原因については、それもまたお経の叙述のなかに見える「茸(きのこ)」であったことだろうというのが、古代からの通説となっています。お経の文中にさしはさまれた一つの偈(韻文)は、そのことを次のように記しています。

 「かくのごとくわれは聞けり
  鍛冶師チュンダの食を召し
  賢者は病いを得たまえり
  死ぬばかりなる重き病いを

  茸(きのこ)の食を召したまい
  重き病いを得たまいて
  腹くだりつつ世尊はいう
  いざクシナーラー(拘尸那竭)へわれは行かんと」

 それは、非常に素朴な韻文です。そこには一片の粉飾もありません。その素朴さは非常に貴重なものです。なぜならば、その表現こそは、初代の仏教者たちが、見え来たり、伝え聞き、語り伝えてきた師の発病の様子が、そのまま定形文にいれて、さきの韻文にまで整えられたものに違いないと推測されるからです。そして、その表現が素朴であればあるほど、そこには、病を患ったブッダ・ゴータマの姿がそのままに浮かんできて、粉飾がなければないだけに、生々しい印象を読む人の心に刻み付けます。中でも、最後の二句を読むにいたって、私たちの胸には、何かこみあげてくるような思いがでてきます。

 「腹くだりつつ世尊はいう
  いざクシナーラーへわれは行かんと」

 クシナーラーも、さきのマッラ族の人々の都城として、かつて繁栄を誇ったことのある町であって、その位置は、パーヴァーからおよそ二十キロの西の方にあり、このあたりからぐっと西に向かって曲がっているさきの交易路の都城にありました。その図形をじっと頭に描きながら、この最後の二句を考えてみると、この伝道の旅にかけたブッダ・ゴータマの意図も、ほのかに窺えるような気がします。この師はきっと、その交易路に沿うて、最後の伝道の旅をし、叶うのであればサーヴァッティーにまで辿り着きたいという心持ちであったに違いありません。だからこの師は、病に蝕まれた身軀の最後の力を振り絞って、「いざクシナーラーへわれは行かん」といったのでしょう。しかし、やっとクシナーラーに辿り着いた時には、この師の生身の力は尽きはてていたのでした。
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