仏教解説

68 人間としてのブッダ -デーヴァダッタ- ⑤

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 さて、これまでが増谷先生のおことばですが、前回にも申しておりました通り、一応注釈を加えておかねばならないでしょう。これに関しては、私より、渡辺先生に説明のほうが適任ですので、先生のおことばを見ていきましょう。


 デーヴァダッタ〔提婆達多(だいばだった)〕はアーナンダと同じく世尊のいとこで、童子に出家して世尊の弟子となった。彼はのちに世尊に反逆して、教団を乗取ろうとし、あるいは分裂を謀り、ついにマガダ国のアジャータシャトル王と共謀して世尊を迫害し殺害さえも試みたと言われる。このことは多くの仏典に記されているが、少なくとも教団の分裂だけは史実と看做(みな)すことができよう。「律蔵」(パーリ語、漢訳)によると、デーヴァダッタははじめ五ヵ条の戒律を提案したという。それは出家修行僧の衣食住について厳重な制限を規定したもので、世尊も称賛する少欲知足の修行〔頭陀行(ずだぎょう)〕とほぼ同じ内容のものであり、その限りにおいては何ら避難すべきものではない。ただ、世尊はこの制限を教団の全員の義務として課することに反対したのである。多くの仏典によるとデーヴァダッタは生きながらにして地獄に落ちたというが、彼の伝統を守る集団は後世にも残っていた。法顕は祇園精舎の記事の中で「調達(デーヴァダッタ)にもまた衆あり、常に過去の三仏を供養し、ただ釈迦文(シャーキャムニ)仏のみは供養せず」と述べている。また玄奘はカルナスヴァルナ国(ガンジス河デルタ地方)において「別に三の伽藍あり、*乳酪を食せず、提婆達多の遺訓にしたがう」と記している。
 * これは『五分律』に出ているデーヴァダッタの五ヵ条の提案の中の「酥乳を食せず」と一致する。
 これらの記事から考えると、デーヴァダッタのグループはシャーキャムニが仏陀であることを承認せず、むかしながらの過去仏信仰に従い、その教えによって衣食住の規律を守っていたものと思われる。ジナ教などと比較してみても、地方的に(おそらく非アーリア民族のあいだに)古くからそのような信仰が伝わっていたということも可能であるし、あるいはむしろシャーキャムニがそのような土着の信仰を改革して進歩的な仏教を説いたのかも知れない。その改革に反対してデーヴァダッタが古い信仰への復帰を主張して分派したということも考えられないことはない。こういうことは、にわかに断定するわけには行かないが、さりとて一概に否定することもできないと思う。いずれにせよ、デーヴァダッタが仏典にいうほどの極悪人であったか、という疑問は考慮の余地があるであろう。(渡辺照宏著「仏教 第二版 デーヴァダッタ」より抜粋)




 デーヴァダッタについてはさまざまなことばでもって極悪人と決められていますが、実際はどうかといわれると、容易に断定することができません。「調達(デーヴァダッタ)にもまた衆あり」と法顕が記しているように、実際にデーヴァダッタの教えを聞き、尊敬し、実践していた人々がいたということです。本当の極悪人が行っていたものであれば、後世までそれが残るでしょうか。

 私の考えでは、特に偉人と称される人によくありがちなのですが、「贔屓(ひいき)の引き倒し」という諺の通りで、尊敬するあまりにその人をかえって不利となるものを残すということがあるのも事実です。つまりは、かの師にとって教団分裂を促したデーヴァダッタは、その思想や事実はさておき、師の尊厳を落としたと経典製作者が考え、彼のことを極悪人としてお経に記したとしても、何ら不思議ではありません。これはあくまでも可能性ということばの域を出ないのですが、もしかしたらと考えると、あるかもしれないと思えなくはないでしょうか。

 史実に基づいてというのは、その時代に記されたもの、たとえばブッダ・ゴータマの場合は経典などを中心としなければ、その時代背景や、人々の生活、出家者の生活や、師の教えなどは分からないものです。だからといって、経典に記されていることばを全て信頼できるかといわれれば、難しいといわざるをえなくなってしまいます。ここにきて、改めて経典を読む難しさを教えられました。
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