仏教解説

67 人間としてのブッダ -デーヴァダッタ- ④

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 続いてデーヴァダッタが考えた奸策は、教団分裂の企てでした。そのために、彼が考えたのは「五事(ごじ)」の主張でした。「五事」というのは、戒律に関する新しい五つの項目という意味で、それらはすべて、従来のものに比べてより一層厳しいものでした。たとえば、その中には、漢訳でいえば、「生涯住樹下」(生涯樹下に住する)という項目があります。確かに沙門の生活は「樹下石上」を建前としています。しかし、あまりに硬直した考え方はブッダ・ゴータマはとっていませんでした。ある時には、樹下に、またある時には、豪華な邸宅の一室に暖かい一夜を過ごすのもよし、あるいは、精舎にともに住んで、共に励まし、あた和合の日々を送るのもいいのです。要はただ、そのいずれにも執着することなく、「行雲流水(空をゆく雲と川を流れる水のように、執着することなく物に応じ、事に従って行動すること)」のような心境をもって行にのぞむことを肝要とするのです。しかし世の中の人々には、より厳しい戒律を守るものを、より重く尊敬しがちとなります。そこがデーヴァダッタの狙いでした。

 彼は、仲間の比丘たちと語らい、ブッダ・ゴータマを拝してこの「五事」を提言しました。師はそれを退けました。お経のことばによれば、その時「デーヴァダッタは、世尊はこの五事を容れたまわずと、歓喜踊躍して去った」と記しています。彼の策は見事に計画通りに動いていたからです。

 彼らはやがて、ラージャガハ(王舎城)の街に入って、人々に「沙門ゴータマはこの五事を容(い)れず。われらはこの五事を持して住す」と言いふらしました。自分たちの持戒は厳しく、ブッダ・ゴータマの生活は奢侈(しゃし)であると宣伝していったのです。

 また彼らは、布薩(ふさつ)の集会にあたって、比丘たちにそのこと(五事のこと)を訴え、「籌(多数決)を取れ」と迫りました。投票によって去就を決することを促したのでした。その頃、新しくブッダ・ゴータマの僧伽(そうが)に投じたヴェーサーリ(毘舎離)出身の比丘たちは、厳しい戒律の主張に心を惹かれて、デーヴァダッタに籌を投じ、彼らとともに、ガヤーシーサー(象頭山)に向かって去っていきました。お経のことばは、その時、彼らとともに去った者は五百人に及んだと記しています。後の教者たちはこれを「デーヴァダッタの破僧」といいます。「破僧」というのは、僧伽を破る、つまりは教団の分裂という意味です。しかし、この教団の分裂は、大事にいたることなく終結を迎えました。これを救ったのは、サーリプッタ(舎利弗)とモッガラーナ(目犍連)の二人でした。

 二人は、ブッダ・ゴータマの前に出て、事情を師に伝え、すぐさまガヤーシーサに向かいました。その後ろ姿を眺めながら、一人の比丘が涙を流して泣いておりました。サーリプッタとモッガラーナは師の第一の弟子であるのに、彼らもまたデーヴァダッタの後を追うのかというのが、その比丘が泣いている理由でした。しかし、本当の事情はそうではありませんでした。

 その頃、ガヤーシーサにおいて、デーヴァダッタは多くの比丘たちに取り囲まれて法を説いていましたが、やがて、はるか彼方にサーリプッタとモッガラーナの二人がやってくる姿を見て彼は狂喜していいました。

 「比丘たちよ、わが法はかくも善いかな。サーリプッタとモッガラーナは沙門ゴータマの第一の弟子である。しかも彼らは、わたしの法を喜んで来るではないか」

 彼は、二人を最高の歓待をもって迎えました。特にサーリプッタには、彼に代わって比丘たちに法を説くことを要請し、彼自身は退いて休息していましたが、疲労が重なっていたからでしょうか、いつの間にか深い眠りに落ちてしまいました。

 サーリプッタは、いつものようにブッダ・ゴータマの法を説きました。そして、「世尊の法をよろこぶ者は来れ。いざ、世尊の許にゆこう」といいました。それによって、五百人の新しい比丘たちは、彼ら二人とともに、再び元の師のもとに帰りました。お経のことばは、眠りより覚めたデーヴァダッタは、「その口より熱血を吐いた」ということばでもって結ばれています。


 これでデーヴァダッタの物語は終わりなのですが、この部分の解釈についてはわたしも疑問に思うところがあるため、次回に注釈を加えたいと思います。
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