仏教解説

66 人間としてのブッダ -デーヴァダッタ- ③

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 やがてデーヴァダッタは、王子であるアジャータサッツ(阿闍世)を訪れて、おそろしいことをいいはじめました。

 「王子よ、むかしの人は長寿であったが、いまの人の命はみじかい。もし王子が王子のままで死んだのでは、残念ではないか。しからば、王子は父王を殺して王となられるのがよい。わたしは世尊をなきものとして、みずからブッダ(仏陀)となるであろう」

 そのデーヴァダッタのことばは、アジャータサッツの思っていたことと合致してしまいました。彼はいつまでも王子のままでいることに焦っていたのです。ひそかに、父王を殺してしまおうかという思いも抱いていました。そして、いまデーヴァダッタにずばりそれをいわれて、彼は慌てました。自分の心の中を見抜かれたに違いないと思ったからです。彼は、急に立ち上がると、眼を血走らせ、剣をとって後宮に走りました。人々が王子を取り抑えて、「どうなさるのか」というと「父なる王を殺すのだ」といいました。それで宮中は大騒ぎとなりました。

 王の大臣たちは、取り抑えた王子の処分について話し合いをしました。あるものは「殺すべし」と主張し、またあるものは「殺してはならない」といいました。その話し合いはいつまでたっても決定できず、ビンビサーラ(頻婆娑羅)王の裁断を仰ぐこととなりました。王は王子の前にでて問いました。

 「王子よ、おまえはなぜわたしを殺したいのか」
 「大王よ、わたしは王位につきたいのです」
 「王子よ、もしなんじが王位を得たいならば、わたしはなんじに王位を譲ろう」

 そしてアジャータサッツは王位につきました。

 そして、デーヴァダッタは、アジャータサッツの力を借りて、ブッダ・ゴータマを亡きものにしようとしましたが、身に何もつけていなかったこの聖者を、彼らはどうすることもできませんでした。

 ある時には、彼らは、アジャータサッツの臣下を刺客としてブッダ・ゴータマに差し向けました。しかし、剣と楯とをとり、弓と箙(矢を入れる道具)をもって装った刺客たちは、この聖者の前に立つと、心がおびえ、身は硬直して、ぶるぶると震えだしました。それを見て、ブッダ・ゴータマが「友よ、恐れることはない」というと、彼らは剱と楯とをそこに投げ出し、この聖者の前にひれ伏して、その帰依者となってしまいました。

 また、ある時には、デーヴァダッタは、この聖者がギッジャクータ(耆闍崛山)の裏路を歩いている時を狙って、山上から大きな岩を転がしてその命を奪おうとしました。さいわいに岩は谷間に支えられて、ブッダ・ゴータマに当たることはありませんでしたが、岩の破片の一つがその足を傷つけました。デーヴァダッタの殺意を知った弟子の比丘たちは、精舎のまわりをとりまいて、師の身を護ろうとしましたが、ブッダ・ゴータマはそれを退けて、「如来は暴力をもってその命をうばわれるものではない」といいました。

 またある時には、デーヴァダッタは、一人の象使いをそそのかして、ナーラーギリという獰猛な象を、ラージャガハ(王舎城)の街なかを托鉢するブッダ・ゴータマに向かって放すと、象は鼻を高く振り上げ、耳と尾をおったてて、ラージャガハの街中を、聖者に向かって突き進んでいきました。人々はそれを、屋根の上や、家の窓から眺めながら、聖者の運命を案じていました。しかし、どうしたことか、この象は、ブッダ・ゴータマの前まで来ると、急に鼻や耳を垂れて静かに停まりました。聖者はその手でもって、象の頭を撫でました。その光景を見て、人々は感歓の声をあげました。その感歓の声を、お経には次のような偈(韻文)をもって記し残しています。

 「ひとびとは象を御(ぎょ)するに
  杖と鈎(かぎ)と鞭とをもってする
  聖者は刀杖(とうじょう)をもちいずして
  いま象を御したもうた」

 そして、デーヴァダッタの企ては、ことごとく失敗に終わりました。暴力と奸策とは、ついに真理によって立つものに勝つことはできませんでした。しかし、デーヴァダッタはなお、その奸策を弄することをやめませんでした。
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