仏教解説

45 人間としてのブッダ -無我- ①

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 次は必然的に「無我」ということばについて言及していかなければなりません。

 「我」とは妄見であり、その妄見は、常識の世界にも、哲学の世界にも、宗教の世界にも、全く抜くことができない強固なものとして存在しています。このことに対してブッダは「無我」ということばでもって、たたかいました。

 そこで、まずいっておかなければならないのは、「無我」ということばについてです。このことばの意味を、忘我恍惚の状態であると思っているとするのであれば、それは大きな間違いです。また、無我とは無念無想の境地に入ることだと思っているのであれば、それも間違いです。あるいは、我(が)を抑えるとか、我(が)を無くすことが無我であると考えるのであれば、それも決して正しい理解とはいえません。
 ブッダ・ゴータマが「無我」ということばによって主張した内容はきわめて明確です。

 「すなわち、こは我所(がしょ)にあらず、こは我(が)にあらず、こは我体(がたい)にあらずと、かくのごとく正慧をもって如実に感ずべし」

 と説かれています。(相応部経典、二二、四五、「無常」。漢訳同本、雑阿含経三、三五、「清浄」)また、ある時には

 「およそ色(肉体)の無常かつ苦にして、変易するものを、〈こは我所(がしょ)なり、こは我(が)なり、こは我体(がたい)なり〉ということをうるであろうか」

 とも語られています。(相応部経典、二二、四九、「輸屢那」)これらは、定型の句として、ほかにも繰り返し何度も諸経のなかに現れてくるのですが、それによってブッダ・ゴータマの主張しているのは、次の三点です。

 1 我所の否定
 2 我の否定
 3 我体の否定

 そして、その三つを説明すれば、それで、ブッダの「無我」という考え方は明確になるので、これよりはその説明になることをご了承していただきたいです。
 まず第一に「我所」というのは、「わがもの」という意味であって、われに所属し、われによって執著(しゅうじゃく)されるものをいうことばです。少しかたい言い方をすれば、常識の世界において一般的にみられる自己の所有に関する固定的な観念のことです。それに対して、ブッダは、そのような所有の固定もしくは恒久(永久)にはありえないと断定します。なぜなら、無常の存在という立場からみると、そのような恒久の「わがもの」はあり得ないからです。
 それを常識の世界における我(が)の妄見とするのであれば、第二の「我」というのは、哲学の世界におけるそれです。インドの古代哲学史においてよく知られているように、ブッダの時代に先立って、ウパニシャッド(奥義書)の思想家たちは、自我を意味する「アートマン」ということばを哲学の世界に持ち込み、それに普遍的実在者の位置をあたえて、古い宇宙原理としての「ブラフマン」(梵)とならべ、「梵我一致」(梵我一如)の説を打ち出していたのですが、ブッダ・ゴータマの「縁起」もしくは「無常」の立場からするならば、そのような自我観は許容できないものでした。つまりは、「こは我にあらず」とは、そのような哲学上の原理としての自我の主張を、真正面から否定したことばとなります。

 そして第三に、「こは我体にあらず」というのは、宗教的世界において一般的にみられる死後にも、永久不滅の我の本体というべきものを否定することばです。「我体」の体ということばは、不変の本体や本性、本質などをいうことばであって、我(が)の本体といえば、たとえば霊魂というような考え方がそれにあたります。それは、この肉体は滅びても永続する自我の本体として、ずっと世に生き続けると考えられるのですが、ブッダの無常の立場は、そのような考え方をも許容することができないのです。


 仏教はどこまでいっても現実主義です。人間の宗教です。仏教に不思議なしです。確実に説明できるもの以外の一切の考えを許容しないのです。だからこそ二千五百年以上時が経ったいまでも光り輝くことができるのです。
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